
浦和すずのきクリニックの鈴木です。
パニック発作を一度でも経験すると「またあの発作が起きたらどうしよう…」という強い不安に悩まされるようになります。
この“まだ起きていないこと”への不安を 「予期不安」 といいます。
「また発作が起きたら恥をかくかもしれない」「倒れて誰にも助けてもらえなかったらどうしよう」など、さまざまな不安が頭をよぎり、外出や乗り物、人混みを避けるようになってしまう方も少なくありません。
この予期不安は放っておくと悪化し、生活範囲がどんどん狭くなることもあります。
そして実は、多くの方が 「予期不安から逃れようとしている行動そのもの」 が、逆に不安を強めてしまっているケースが多いのです。
本記事では、予期不安を悪化させる典型的な考え方や行動、そして 「予期不安に振り回されずに日常を取り戻すための具体的な対処法」 をご紹介します。
1.パニック発作との違い
パニック発作は、突然に激しい動悸、息苦しさ、めまい、発汗などの身体症状があらわれ「このまま死んでしまうのでは…」というような強い恐怖に襲われる状態です。
多くの場合、数分〜30分ほどでピークを迎え、おさまっていきます。
それに対して予期不安とは、
「また発作が起きるのでは?」
「今度こそ本当に倒れてしまうかもしれない」
などと「まだ起きていない未来」に対して不安を感じ続けている状態のことを指します。
つまり、発作が実際に起きているのが「パニック発作」、
起きていないのに起きるかもしれないと不安になるのが「予期不安」です。
2.予期不安が生活を制限するプロセス
予期不安は、放っておくと行動をどんどん制限してしまいます。
たとえば以前に電車内で発作が起きた経験があると「また電車で発作が出たら…」という不安から、電車に乗ること自体を避けるようになります。
同じように、
- 人混みを避ける
- 外出を控える
- 誰かと一緒でないと出かけられない
- 「逃げられない場所」が怖くなる
といったふうに、日常の行動範囲がどんどん狭くなっていくのです。
また、「発作が出ないように」「不安にならないように」と、
- いつも水や薬を持ち歩く
- トイレの場所を事前に調べる
- 何かあったときの“逃げ道”を準備する
など、不安を避けるための行動や準備が習慣になってしまうこともあります。
これが、かえって予期不安を強めてしまうことにつながるのです。
3. 予期不安を悪化させてしまう行動とは?
予期不安を抱えていると、なんとかして「発作を起こさないように」「不安を感じないように」と行動するようになります。
これはごく自然な反応ですが、実はそれが不安をさらに強める原因になってしまうことも少なくありません。
その大きな理由は2つあります。
①「準備をしすぎる」ことで不安が強化される
・水や薬を常に持ち歩く
・発作が怖い場所では必ず誰かと一緒にいる
・人混みに行く前は必ずトイレの場所を確認する
・発作が起きたときの対処法を何度もシミュレーションする
…こうした行動は「安心材料を手元に置いておかないと不安でいられない」という思いから生まれます。
しかし、それを繰り返していると、
「準備がないと不安に耐えられない」=「自分には不安を乗り越える力がない」
と無意識に思い込んでしまい、かえって不安への自信を失っていくのです。
②「対処法ばかり考える」ことが逆効果
また、発作が起きることを想定して「もし○○になったらどうしよう」とあらゆる対処法を事前に考えておこうとする人もいます。
人は、自分が考えていること・意識を向けていることを、より強く感じるようになります。
つまり「発作に備えなきゃ」と考えれば考えるほど、発作への意識が高まり、不安をよりリアルに感じてしまうのです。
さらに、発作が起きたときの対処法を頭の中で何度もシミュレーションすることも、安心を得るどころか「常に不安と一緒にいる状態」になってしまいがちです。
この“対処を考える”という行為は、一見すると冷静な準備に思えるかもしれませんが、
実は心の中では「発作が起きる前提」で動いており、不安を強化する方向に働きます。
不安に対して備えようとすればするほど「今は安全ではない」「この状況は危ない」と脳が判断しやすくなり、予期不安は強くなっていくのです。
では、予期不安に対してどうすればよいのでしょうか?
3つのヒントを説明します。
①不安を感じながらでも「今の自分」に戻る
大切なのは「予期不安をなくすこと」ではなく「予期不安があっても、今ここでできることに戻ってくる」ことです。
不安なイメージ(発作が起きるかも、倒れるかも)に巻き込まれていると、意識が未来に飛んでいます。
そのため「今、目の前で起きていること」に意識を向け直すのです。
たとえば不安を感じながらでも…
- 部屋のカーテンを開けて光を取り込む
- 手元のコップを洗う
- お気に入りの音楽を流してみる
- 小さくストレッチをして、体を感じてみる
- お茶を淹れて、味や温度をゆっくり味わう
これらは「気を紛らわせる」ための行動ではありません。
「私はこの不安と一緒にいても、自分の時間を大切にできる」というメッセージを、自分自身に送る行動です。
不安を感じている最中は、それに飲み込まれてしまいそうになることもあります。
そんなときは「今、自分にできる小さなことは何か?」と問い直してみてください。
たとえ数分でも、たとえほんの小さな動作でも、「今ここ」に戻る行動が、予期不安に振り回されにくくなる力になります。
②「準備をしすぎなくても大丈夫」を体験する
先述したように、予期不安が強いと「何かあったときのために…」と過剰に準備をしてしまうことがあります。
こうした「安心材料」は一時的には気持ちを落ち着かせてくれるかもしれません。
しかし、長い目で見ると、「準備しないと不安でいられない」という感覚を強めてしまうことがあります。
ここで大切なのは、少しずつ「完璧に準備しなくても、案外大丈夫だった」という体験を積み重ねることです。
- 水を持たずに、近所のコンビニまで出かけてみる
- 病院の場所を調べずに、駅前まで散歩してみる
- 荷物を最小限にして、短時間だけ外出してみる
これらは「不安に慣れる」ためではなく「準備しすぎなくても、意外と困らなかった」という実感を得るためのステップです。
もちろん、最低限の準備は必要です。
例えば電車で旅行するなら、どこの路線で行けばよいのか?気温からどの服装が適切か?などの現実的な問題への準備はした方が良いでしょう。
しかし「新幹線に乗ってパニック発作が起き、降りられないからどうしよう」「何かあった時のために逃げ場所があるかを確認しよう」などパニックへの不安に対する準備はしないようにしましょう。
「本当にその準備は必要か?ただ不安を避けたいだけではないか?」と、自分に問いかけながら準備の量を見直してみましょう。
少しずつでも「準備をしなくても平気だった」という経験が増えるほど、予期不安に左右されにくくなります。
③完璧な対処法より何とかなった経験をする
予期不安があると、多くの人が「いざという時どうすればいいか?」と対処法を必死で考えます。
このような対処方法を探すことは自然な反応ですが、そればかりに頼ってしまうと予期不安が強くなってしまいます。
いくら対処を考えたとしても「もしも、それでうまくいかなかったら」など、不安になり、完璧な対処を求めてしまいます。
「絶対に最悪のことは起こらない」ことは保証できないため、ずっと対処法を考え続けてしまうのです。
大事なのは、絶対大丈夫な対処法を探すことよりも「不安になっても、なんとかなった」という経験を少しずつ積み上げることです。
- 呼吸法がうまくできなかったけど、家までちゃんと帰れた
- 頭が真っ白になったけど、すぐに落ち着いて話せた
- 何もできなかったけど、結局大事には至らなかった
こうした「不完全な中でも大丈夫だった」という経験が、予期不安を軽くしてくれます。
予期不安に完璧な対処法はありません。
だからこそ「何があっても絶対安心」という方法を探すのではなく「不安はあったけどなんとかできた」という自信を育てていくことが、長い目で見てとても大きな力になります。
「またパニック発作が起きたらどうしよう」と思ってしまうのは、ごく自然な心の反応です。
過去のつらい体験を覚えていて、もう同じことが起きないように一生懸命守ろうとしてくれているのです。
しかし、心配しすぎることで、かえって日常を制限してしまうこともあります。
この記事でご紹介したように、不安をなくそうとするのではなく「不安があっても大丈夫」と少しずつ体験していくこと、そして「今、自分にできること」に丁寧に目を向けることが、予期不安とうまく付き合っていく大切な一歩になります。
もちろん、一人でやるのが難しいと感じたら、専門家のサポートを受けることも選択肢のひとつです。予期不安やパニック発作でお悩みの方は相談お越しください。