浦和すずのきクリニックの鈴木です。
強迫症の症状で家族を巻き込んでしまう「巻き込み」と呼ばれるものがあります。
例えば何度も鍵の確認をしてしまう確認強迫なら「カギ閉めたよね」と家族に聞いたり、家族に鍵を閉めてもらったりします。
不安になると周囲に安心を求めてしまうような行動で、自分の強迫行為に他人を巻き込むのです。
巻き込みにより一時的に安心はするのですが、また不安になり何度も確認するようになったり、家族がいないと行動出来ないようになり症状は悪化します。
この記事では、巻き込みの症状と対処法について説明します。
家族とともに症状を理解して対処することにより症状の改善だけでなく、家族関係が良好になるとことが期待できます。
家族を巻き込んでいる強迫症の人は実践することで症状を改善する一歩となるでしょう。
巻き込みは家族に保証を求める(例 鍵を閉めたよね?と確認)、家族に苦手なものをやってもらう(例 家族に鍵を閉めてもらう)、家族に強迫行為を強要する(例 家族に自分の決めた確認回数や確認方法で確認させる)、といったパターンがあります。
不潔強迫の人なら「手がキレイになったよね」と確認。
ごみ捨ては汚いから家族にやってもらう。
家族に自分の手洗いの仕方や、触ってはいけないものなど儀式(帰宅したらシャワーを浴びさせるなど)を強要する。
その他の例としては
・メールや会話で「失礼なことを言ってないよね」と確認
・車の運転中に「誰もひいてないよね」と確認したり、同乗者がよそ見しないようにさせる
・質問に対して相手が納得いく言い方や内容を言うように何度も要求する
・「○○を食べたらガンになる」と考え、家族にも○○を食べさせない
①強迫行為が悪化する
巻き込みは不安や強迫行為から一時的に安心感を得るための手段となることが多いです。
例えば「手を何度も洗わなければならない」という強迫観念を持っている場合、家族が手を洗うなどその行為に付き合い安心を与えることで、結果的に強迫行為が強化されてしまいます。
短期的には安心感が得られても、長期的には症状が悪化し、強迫行為が止められなくなる可能性が高まります。
②周囲が疲れてくる
巻き込まれる側、特に家族や近しい人は、不安や強迫行為に頻繁に対応することで、精神的・身体的なストレスを感じることがあります。
巻き込みが長期にわたると周囲の人々も強迫行為に振り回され、日常生活に支障が生じることがあります。
また、巻き込まれた人々が適切な対処法を知らない場合、患者に過度に協力してしまい、強迫症状を無意識に悪化させる可能性もあります。
③周囲との関係悪化
巻き込みが頻繁になると、周囲の人々との関係が悪化することがあります。
家族や友人が協力し続けることに疲れ、やがてイライラやフラストレーションを感じるようになると、患者とのコミュニケーションが断絶する危険性が出てきます。
結果的に強迫症の人は孤立し不安や症状がさらに悪化することがあります。
巻き込みに対処するためには強迫行為に他者を巻き込まないよう、自らの行動を管理し、適切な対策を講じることが重要です。
巻き込みが進むと症状が悪化しやすいため、自分でこの問題に取り組むことは治療の一環となります。
以下に具体的な対処法を挙げます。
①どんな巻き込みがいつ、どれくらい起こっているかを把握する
まず、自分がどのように周囲の人を巻き込んでいるかを認識することが重要です。
そうすることで巻き込みを減らすための具体的な目標を立てることができます。
巻き込みがどのように日常的に行われているか、誰にどのような協力を求めているかを意識して振り返ります。
家族にどんな巻き込みをしているか聞いてみてもよいかもしれません。
巻き込みをメモしてリストアップするとよいでしょう。
②巻き込みをやめる練習の計画を立てる
いきなり全ての巻き込みをやめるのは難しいものです。
このため、たくさんある巻き込みの中で何から減らしていけばよいか?どのように減らせばよいかを考えます。
何となくやるのではなくターゲットの巻き込みをいくつか選び、計画的にやることがポイントです。
計画的に実施することで、巻き込まない間何をどのようにすればよいのかの計画が立てやすいですし、練習としてやりやすくなります。
基本的には難易度が低いところから実施することがやりやすいでしょう。
リストアップした巻き込みに0(簡単)~100(難しい)と点数をつけ、点数の低いところから実施するのです。
小さな成功体験を積み重ねることにより、最初は難しいと感じていたものもできる自信がついてきます。
それ以外の考え方もありますのでご紹介します。
・よく起こる巻き込みを選ぶ
たまにしか起こらない巻き込みだと練習はしにくいです。
例えば車の運転中に「誰にもぶつかってないよね」と巻き込みをしている場合、家族と一緒に車にほとんど乗っていないなら練習頻度が少なくなくなってしまいます。
このため、一日の中でよくある巻き込みを選ぶようにしましょう。
・巻き込みによって家族との関係性が深刻になっているもの
巻き込みをすることで家族との関係性が悪化していることがあります。
関係性が悪化すると家族も自分もストレスになり余計強迫が悪化します。
そこで家族がものすごく負担に思っていて、自分も何とかやめられそうな巻き込みから取り組んでみるのも手です。
そうすることで家族の負担が減り、関係も改善し、喧嘩が減ることで強迫にも良い影響を及ぼしやすいでしょう。
家族と一緒に考えてみてもよいかもしれません。
③実行する
計画を立てたら巻き込みをしないでいる練習をやってみましょう。
巻き込みをしないことで不安は高まるかもしれません。
しかし、その不安は時間とともにマシになってくることが多いでしょう。
不安がどれくらいでマシになったかを記録することは次にチャレンジするときのはげみになります。
この経験を繰り返すことで巻き込みをしなくても何とかなるという自信がついてきます。
巻き込みをしない間、何をすればよいのでしょうか?
不安なことをずっとアレコレ考え込んだり、「大丈夫、大丈夫」とひたすら安心させようとしていると、不安がマシになる感覚を得ることはできません。
不安な考えとは戦わないで日常生活をするのがおすすめ。
強迫観念がおそってきたら「はいはい、そうだねー」とスルーしながら、自分の好きなことをしましょう。
このやり方は、強迫的な思考に対して戦うのではなく、軽く受け入れて不安な思考を重要視しないという態度をする練習です。
何度も練習する必要がありますが、強迫的な思考がもたらす不安やプレッシャーが軽減され、次第にその強度も弱まっていくことが期待されます。
「はい、はい」とスルーしつつ、別の活動に意識を向けるようにしましょう。
別の活動に意識を向けるといっても「注意をそらす」こととは異なります。
思考を完全に無視したり、避けたりするのではなく、それをただ存在させつつも、あえて大きな意味を持たせないという方法です。
これについては、こちらの記事に詳しく書いたので参考にしてみてください。
https://www.heartcompany.co.jp/urawasinri/2021/10/02/post-5270/
巻き込みへの対処法について説明をしました。
巻き込みを減らすことで強迫症の改善につながることは間違いありません。
しかし、巻き込みを減らすだけでは足りないことがほとんど。
巻き込み以外に強迫行為もやめなくてはなりませんし、自ら苦手なことにチャレンジすることも必要となります。
これらの練習は認知行動療法でやることができます。
巻き込みを減らす以外のことも実践することで、強迫症に囚われない生活を送ることができるようになります。
強迫症でお悩みの方は認知行動療法の専門家に相談してみてください。